ビジネス本マニアックス

内藤による働く人のためのビジネス本紹介サイト⇒自身の30歳の就職活動についても書いたり。10年くらい更新止まっています。⇒「はてなダイアリー」から「はてなブログ」へ移転しました

信頼関係とはどういう関係か (2002/12/15)


  内藤の仕事はセールスです。セールスというのは端的に言うと、ヒトと会って物を買ってもらう仕事です。そういう仕事においては信頼が大切と言われています。お客さんから信頼されることが大切なのだというのです。その理由は信頼できないヒトからは物を買わないからということです。


  ここで、それは本当か? と思うわけです。特に技術者系のヒトからの反論がありそうです。良い物であればセールスマンなんて要らないという考え方があるからです。例えば、ソニーでは、セールスマンの要らない商品を作れ、といって開発したという話もあります。しかしそれはある意味正しく、ある意味間違っています。それが真であるのは特定の条件下のみです。


  セールスマンが要らない商品というのは、下手をすると非常につまらないことになります。例えば、砂糖はどうですか? 塩は? セールスはいらないでしょう。トイレットペーパーは? ね。どれもつまらない日用品ばかりでしょう。


  でも、美味しい塩はどうですか。セールスは必要ですよね。というのも、そこらのつまらない味気ない塩と違って、美味しいわけですから。生活をグレードアップさせる商品ですよね。そういう商品にはセールスは必要です。セールスマンは個別に必要ないかもしれない。でも何らかの形のセールスプロセスは必要ですね。また、トイレットペーパーにしても、どこのでも同じだと、買う側は構わないわけですが、売る側からすると凄く困る。ウチの商品を買ってくれないと困るわけです。だから皆、差別化を図ります。そうなってくるとセールスプロセスは必要なのです。


  そこで、ソニーあたりでのセールスの要らない商品の開発ということに戻りますが、要は電気製品だからです。電気製品というのは、今でもそうですが、昔は特に新しいものであって、訳の分からんものだったのです。とすると、そういう訳の分からないもの、今までなかったものを売るにはお客さんを説得して売るということが必要なのです。それを使うとどれだけ楽しいか、どれだけ便利か、ということを消費者に教えながら売らなければいけなかった。でもそれは非常に手間がかかります。手間がかかるがなかなか売れないわけで、それはすなわち儲からないということです。とすると、儲かるためには、説得の要らない商品が望ましいわけです。普通のヒトがすぐに分かるくらい分かりやすい商品でいて、魅力的な商品を作れ、ということを意味していたわけです。そこには電気製品製造屋さん特有の事情が隠されていますし、新しい商品ジャンルを作り出してきたソニーらしい発想です。二番手製品ばかりを作るメーカーであれば、先行した企業の同等品を作れば良いわけで、お客さんが既にそういう商品を知っている説得不要の商品を作るから、そうした悩みはないわけです。


  また、セールス担当に対する信頼は必ずしも必要か、という話になりますが、実際のところ、みな100%セールス担当のことを信頼して買っているわけではないです。セールス担当が信頼できなくても、そのセールス担当が担当している商品が世界的なブランドで信頼があったりすれば、その会社やブランドを信頼して買うということもよくあるわけです。そのため、ブランド品を売っているセールスは自分の信頼で売れているのか、単に会社の信頼で売れているのか分かりません。もちろんセールスというものは、自分への信頼で売れていると「信じたい」し、実力と「信じたい」わけですが、実際のところは闇の中です。


  つまり、「信頼関係が大切」と言われるわけですが、その実質は闇の中なのです。それはもちろん「信頼関係が大切」ということはコトバとしては理解できます。でも実態としての信頼関係があるというのはどういう関係なんだろうと思ったわけです。内藤はセールスという仕事を2年前に始めて、思った疑問でした。信頼ってなんだろう、信頼されるというのはどういう感じなんだろう、と。というのも、顧客とセールス担当の関係は、一面的に見れば、こちらは商品を売って儲ける側、相手はお金を払って買う側という、潜在的な敵対関係にあるわけですから。


  内藤は、この2年間、同僚や先輩と何回も同行して見てきましたが、多くのケースで個人的に特に信頼関係が築けているようには見えませんでした。正直な話、そのヒトでなくてもいいんじゃないかなと思えるわけです。少なくとも、内藤の目からすると、顧客は100%の信頼を与えていないように見えました。でもセールス担当は、信頼関係があると言うわけですね。これはどういうことだろう、と内藤は考えました。内藤が下した結論は、そういうセールス担当は、信頼関係があると言って見せているだけか、もしくは、信頼関係がある、という状態の判断基準が内藤と違っている、ということでした。


  セールスにおいて信頼関係は大切ですが、すべての販売において信頼関係というものは必要条件ではない現状があります。もちろんきちんと信頼関係を築かないと売れない商品もあります。でも他方、セールス担当と顧客がそこまで信頼関係を築かなくても売れる商品というのもあるのです。ましてや、自分が信頼されていないなんていうセールス担当はいませんから、信頼関係という言葉は、セールス担当各人でバラバラで、有用性をもっていない単なるスローガンに過ぎないものになっているわけです。とすると、そんな指示対象の良くわからない概念は破棄すべきと思ったのですが、他方、有用なケースもあるようなので、実態は存在するけれどもきちんと定義されていないと考えるようになりました。


  そのうち、内藤はいろいろと商談を重ねていくうちに、信頼されるということの感触がだんだん分かってきました。他方、信頼されていないように内藤からは見えるのに、信頼されているというヒトを見るうちに、共通項が見えてきました。信頼関係についての理解が違うのだと分かってきたのです。


  内藤からすると信頼されるということが分かっていないヒトというのは、相手に対して好意を見せたり、笑顔を見せたり、誠意を見せたりすることが、信頼を勝ち取るための方法であるように思っているのではないかと思うようになりました。でも笑顔は作り笑いです。また、嫌われないようにビクビクしています。そして、好意を見せたり、誠意を見せたりするということは、その実質は、値引きをしたり、おまけをしたり、その人のために駆けずり回ってあげることであったりするのです。


  相手から信頼を勝ち取るためにそのようなヒトは、作り笑顔をしてみせて、値引きをしてみせ、オマケを提供し、召使のようにかしずいて見せながら、嫌われまいとビクビクすることをするのです。これで本当に「信頼関係」が築けるのですか? 内藤は決してそんなことはないと思ったわけです。むしろこの対極に信頼関係があると思えました。


  つまり、コトは、セールスだけの問題ではなかったのです。実は基本的な人間関係の作り方の理解の問題でもあったのです。何かをしてあげないと好かれない。そういう発想が根底にあるわけです。逆に、何かを与えてあげたから相手からの見返りを求める気持ちです。そういう考え方が根底にあるからこそ、顧客と信頼関係を築こうとなったときに、同じように、何かをしてあげたから代わりに何かを貰う、という駆け引きの関係を築こうとしてしまっていると内藤は思ったのです。


  端的に言うと、これは人間性の問題だと分かりました。セールスというのは、人間同士が対峙する仕事ゆえに、人間性や品性が露骨に出てくるんですね。そのことに気がついて内藤は感動した反面、背筋が寒くなりました。これほど怖いことはないな、と。前にも書きましたが、顧客の前において我々は何も隠せない。我々は裸だ、ということなのです。


  それで内藤はその対極を追求することにしました。内藤にとっての「信頼関係」とは「駆け引きをしない関係」です。商談に必要な情報は明かしあう関係です。必要なことはお互いに隠さない。そのためには、まずこちらが隠さず、駆け引きもしないことが必要であることがわかりました。セールス担当の側から、率直に商談に臨む。直球勝負をかけることが、逆に相手に対して、「駆け引きをしない関係」をしようとしていることを強く訴えることになるのです。そして、相手が隠したり、腰が引けたりするようであれば、それは今度は相手こそが信頼関係を築けないヒトであると言えるのです。つまり、内藤にとっての信頼関係である、駆け引きをしない関係とは、内藤だけでなく、相手にもそれを求めるのです。そうでなければ決してそういう関係には出来ないのです。そのためにはまずこちらから駆け引きをしないで直球勝負で行くのです。これがシンプルでありながら最も強力な方法であることに気がついたのです。


  もちろん内藤もオトナなので、オトナのルールに従いますし、細かなテクニックはあります。でも基本は直球勝負です。直球に答えてくれるバッターだけを相手にすることが実は重要だということに気がついたのです。つまり、顧客の側も、信頼関係について「何かをしてやれば買ってやる」というような信頼関係の作り方について内藤と考えを異にするヒトたちがいるからです。そんなヒトとは付き合わないことがコツだと分かったのです。内藤にとって信頼関係とはこういう関係なのです。




(注) 今となっては懐かしい文。このころセールスのコツに気がついて、書いた。今も基本的に同じだが、よりはっきりと顧客との関係について分かるようになった。それについては今度書いてみたい。(2004/07)

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