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ちょっと珍しい本です。経済学者といえば、理論上の「市場」をあれこれモデルを精緻化して議論するのが得意ですが、伊藤元重教授は、実際のマーケットについて、法則を見出し、経済の理論に合うということを冷静に説明しています。
内藤は基本的に学者の書く本は読まないのですが(実践的でないから)、この本は、本流の経済学者でありながら、なかなかに実践的で、参考になる点が多くある本でおおすめしたいのです。
特に内藤が感銘を受けたのは、つくば市にあるパン屋、という話です。
不便なところにあるおいしいパン屋がここで繁盛している理由を考察しています。まず、クルマ社会のつくば市では、皆がクルマで移動できるので商圏が大きいというところから始めます。そのため商圏内に大型ショッピングセンターが複数あり、競争は激化しています。しかし、その不便なパン屋は繁盛している。なぜか? それは1000人に2人という0.2%の顧客支持率でも10万人といった大きな商圏であれば200人の物好きな顧客がいることになり、十分やっていけるというのですね。対して、大型ショッピングセンターは逆に10%くらいのシェアは取らないとやっていけない。0.1%のシェアを取るのは難しくないが、10%のシェアを取るのは難しい。つまり、店舗の規模が小さいほど、そして、市場が大きいほど、より小さな差別化で繁栄できる。ゆえに、競争激化は中小企業に有利である。というんですね。
これはですね、内藤は実感として分かるのです。市場が大きいほど、差別化をやって、顧客ターゲットを絞りに絞りきるとそこそこ採算が合うようになるんですね。むしろ、誰でもオッケーみたいに、大手のようにエブリワンカモーンとやるとまったく失敗する。実際のところ、差別化をやってないところが多いので、市場が大きくなると大手に対して敗退しやすくなって厳しいということになるのですが、そこには市場の分割による差別化という道が残されているんですよね。それを伊藤先生は分かりやすく述べたわけです。
ほかにも、きっちりと理屈で説明してくれていますので、そういう意味で、なかなかお薦めです。