ディズニーシーと行列の魅力 (2004年6月26日)
最近のマーケティングの本には書いてあるが、人気を出すために、店ではわざと行列を作れ、ということがある。「人気がある→行列ができる」ということが本来の図式だったのだが、逆に、「行列がある→人気があるに違いない→オレも並ぼう」という風になって行列が機能するわけである。
というわけで、わざと行列を作りましょう、という教訓になったりする。わざとモノをサーブするスピードを遅くしたり、窓口を小さくしたり、店舗を小さくしたりする。
人は皆が行くところに行きたがるので、ここが皆が行くところですよ〜、と教えてあげるのが行列の機能の一つなのである。
だから、店に人気が出来て、いつも行列になるからといって、急に店舗を倍の大きさにしたりすると、急に閑古鳥が鳴き始めたりするわけである。この実例は最近、ウチの近くのラーメン屋で起きた。もちろん客が減った(というか、外から減ったように見えるだけだが)のは、店舗を大きくしたからだけではないかもしれない。でも、内藤には店舗を大きくしたことが境になっているようにしか思えないのだ。
その店は、背油ギトギトのコクのあるスープと太い麺で人気だった。今となっては古典的なラーメンである。うまい。内藤もたまに猛烈に食いたくなる。そのラーメン屋は、建物の一階にあり、道路に面して、広い間口を持っていて、すべて開け放たれていた。中は立ち食いの店で、大通りからそこの店がいつも立ち食いの客でいっぱいなのが良く見えた。年中満員であったのだ。
ところが、その店の二階に座って食べられる店舗を作ったところから風向きが変わった。座って食べられるために、二階に客が行くことが増えたようなのだ。すると一階の開け放たれたスペースは結構空いてくる。
外から丸見えの一階の店が空いてくるとなんだかいつでも食べられるような気がしてくる。そう、満員であったり、行列を見ると、食いはぐれるような気がして切迫感を感じるために並びたくなるのだが、空いているといつでも手に入る気がするから、いつでもいいや、とか思ってしまうのである。行列には、自分には手に入らないかもしれない、という切迫感を起こさせる効果もある。これは先延ばしされる支出をいまお金を出させる効果がある。
というわけで、今ではそのラーメン屋は結構空いているときが多く見られるようになった。内藤は、その原因は二階に店舗を広げたことにあると「信じて」いる。人は人を呼ぶのである。
まあ、このあたりはセオリーかと思う。ここからが本題なのだが、内藤は先日ディズニーシーに泊りがけで行ってきた。するとどうだろう、ちょうどガラガラに空いている日に当たったのだ。とにかくどのアトラクションも待たずに乗れる。ショーは空席がある。レストランはピーク時もかなりの空席が目立つ。そんな珍しい日にちょうど行くことが出来た。
内藤にとってディズニーシーは初めてだった。セットの凝り具合、アトラクションの出来の良さ、サービスの雰囲気などはとても堪能した。素晴らしい出来だと思った。ピカピカのリゾートラインに、ミッキーのつり革は最高だった。
しかし。どのアトラクションも待たずに乗れるので、一日ですべてのアトラクションに乗りつくしてしまった。ショーも全部見た。素晴らしいショーがあった。人気のセンターオブジアースなんかは4回も乗ったくらいだ(ばか)。いや、何度乗っても面白かった。すごく良く出来てる。作りこみが凄い。ディズニーは凄い。
だが。もう内藤はディズニーシーには行かない。だって、もう見て見て、乗って乗って、なんだか全部がほとんど分かったような気になってしまったから。いくつかアトラクションが入れ替わっても、いやー、別に行かなくていいかなー、って感じ。制覇した、という気分なのである。もちろんまだ食べてないレストランはあるけど!!
ここで内藤は気がついた。サービス業の見本とも言われ、リピートさせる魅力がつまった東京ディズニーリゾートとは言えども、制覇されてはやはりリピートは望めないんではないか、と思ったのである。規模は国内では凄い。作りこみはおそらく比較になるものはないくらい。ゆえに、本当は一日で全部のアトラクションに乗られ、全部のショーを見られてしまってはいけないのではなかったか。一日や二日で見切れない、ということが東京ディズニーリゾートの神秘を大きく支えているのではないかと思ったのである。もしかするとこのことは当たり前だったかも、とか今書いてて思ったくらいだ。
つまり、見本といわれる東京ディズニーリゾートとは言えども、規模+作りこみの凄さ+サービスだけではなくて、行列の効果をフルに使っているわけなんだろうな、と思ったのであった。だって、待ち時間なし、というのはどういうことかというと、ネモ船長の部屋なんて足早に駆け抜けてしまって、作りこまれた部屋を観察するヒマなんてないし、インディジョーンズでは、骸骨一個一個に気がつくヒマもなく搭乗なのである。確かに面白いが、100分とか120分とか待って乗る感動とはかなり違うだろうし、満足感も違うだろう。ケーキはチョコっとしかないから、もっと食べたくなるのであって、タップリあると食欲が失せる。いや、一度は楽しめるが何度も楽しめない。リピートってそういう仕掛けなんだろうなと思ったのである。もちろん、家族連れだと、子供が何度もせがむだろうから、別だろうね。子供はなかなか飽きないから。
まあそんなわけで、魅力というのは、制覇しつくせないとか、なかなか手に入らない、ということで醸し出される部分が結構あるなあというのをいくつかの実例で見たのであった。サービス業の見本とされる、ディズニーリゾートでも発見できたのはなかなか良かった。それゆえに、人気のアトラクションで2時間待ちとかそういうのは、内藤なんかはまったく行きたくなくなるんだが、一般的には逆に人をひきつけて集める機能があって、ディズニーリゾートですらそういう魅力をフルに使ってるんだねえと思ったのである。
(余談だが、ディズニーシーのショーでは、お勧めが二つある。まずは、ミスティック・リズム。ジャングルを模した舞台で動物たちや精霊が踊りまくるショーだが、生演奏の大迫力、ダンサーの躍動感あふれるダンスを前列で見るのは最高に楽しめる。また、夜にやるジャズショーは、大人向けでノリノリで必見である。どちらも二度見ても楽しめる。)
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