2流品をカタログで売る【30歳はじめての就職のあと(10)】
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●2流品をカタログで売る【30歳はじめての就職のあと(10)】
その会社で売っていた品物の多くは2流品だった。それぞれの分野でトップブランドに対して、似たような品物を意図して作った会社の品物を扱っていた。
とはいえ、コンシューマーマーケットほど厳しいわけではなく、トップブランド(大抵がその分野の最初の製品)は相対的に強いレベルだった。そのため、ある程度戦えた。
幸運であったのは、競争が限定的だったことだ。どういう点が恵まれていたかというと、広告面でも、営業マンのリーチという点でも、トップブランドを扱っている商社や日本法人の営業力やマーケティング力がそれほどないことだった。すべての潜在顧客に対して営業マンが一部しかカバーしておらず、多くの抜けがあり、情報流通も限定的で、開拓余地が大きかった。
これが条件が逆になると、2流品を扱っていると途端に厳しくなる。潜在顧客のほとんどには、大手の営業が何度も足を運び、資料を行き渡らせ、顧客はすでに十分な商品情報(しかも大手の啓蒙による自社に有利な情報)を持っているというケースだ。
幸い、そういうことはなかったので、素人で始めた僕にも勝機はあった。
2流品で戦うのはスキルアップに有利な条件
この2流品で戦うというのはセールス技術やマーケティング技術の育成にとても役立つ。多少劣っているのだからアピールに力を入れなければ売れないからだ。
売るものは1流品であればいいというものでもない。1流品だと製品力で売れてしまうのでラクが出来る。ところがラクな分、売り手の営業力やマーケティング力の育成には役に立たないのだ。製品力を自分の営業力と勘違いしている営業マンも多い。そういう営業マンは転職すると成績が極端に落ちるので分かる。
僕は、自社の商品特性と他社の商品をよく比べて、売りになる点をピックアップし、その良さを広告と資料で訴求した。また、お客さんへのヒアリングでも自社に有利な点を利用したくなるかどうかに集中させた。逆に言えば、他社品が有利な用途では、さっと引いて競争するのを避けた。そうすると逆に売れてしまったりするのだが。
また、自社取り扱い品のブランディングにも努めた。そもそも、潜在顧客はそのマーケットの商品群を良く知らない。なので、自社製品の得意な部分の性能をアピールしつつ、製品名を大きく打ち出した。得意な性能=製品名、という結びつきをするように地味なブランディングを仕掛けた。広告でも、説明資料でも、営業トークでも行った。
ちなみに、顧客がよく知らないと思って、ここでやってはいけないのは誇大説明をすることである。○○を知り尽くしたA社、とか、そういう誇大な説明はいけない。しかも、抽象語は使ってはいけない。そもそも、この手の技術系の商品は抽象語はダメだ。買い手はプロなのでウソくささがして避けてしまう。
ともかくも、2流品を売るというのは、マーケティング力、営業力ともに鍛えさせてもらったと思う。製品が悪いとか言って売れない理由を製品のせいにしている営業がいるが、むしろチャンスなのだ。2流品が自在に売れるようになると、1流品だとメチャクチャ売りやすい。言ってみれば、大リーガー養成ギプス(古)をつけてトレーニングしているようなものだからだ。また、世の中の多くの商品は2流品なので、転職しても非常に役立つ。
IT系の営業になって思うんだが、この業界は若手が多いせいか、売り方が下手だと思う。所属企業が業界大手ならイケイケで、企業の若さとパワーを売りにして、製品はオーバートークして売ってるが、オーバートークで自滅とか見かける。また、中小企業なら、営業が自信なさそうで自滅とかそういうのが多い。あと、商品の良さを分からないで売っているので伝えきれないで、あとは値下げしかない感じで、やたら値段が下がる。売ってる側が商品を知らないとか、価格設定の理論を知らないのも問題だなあとか思ったりする。これは余談だけど。
現物なしでカタログで売る
輸入商社だったので、モノによってはデモ機があったが、多くの場合、カタログのみで販売していた。顧客から注文があってから海外メーカーに発注するのである。在庫リスクゼロでよいのだが、売るときに手間取る。何しろ、カタログと説明で売らなければいけないのだ。
このときのポイントは、顧客の不安やニーズを生き生きとコトバで説明してみせることである。その製品を使うことで何が解決するか、何が出来るかは実は毎回決まった話なので、トークを分かりやすく生き生きとしたものに練り上げておいた。また、不安になる箇所も決まっているので、安心させる説明も練っておいた。
形のないものを売るのは難しい。さらに、お客さんが使ったことがない形のないものがもっとも難しい。なぜなら、使っている姿がお客さん自身にイメージできないからだ。
逆に言えば、この攻略ポイントは、お客さんに使っている姿をイメージさせられるか、である。お客さんに、使っている姿をイメージしてもらえば購入に至る。
そのためにコトバやカタログを使う。カタログは、そういう使っている姿をイメージできるような資料に作りこんでいくのだ。そうすれば、お客さんは僕がいない間もカタログを見て、それを使っている姿を思い描いてくれる。資料とトークが重要なのだ。
これも、売れない営業はやたら現物に頼る。モノがないと売れないのだ。つまり、お客さんにイメージさせるトークができないのだ。そこで、お客さんに直接触ってもらってイメージしてもらうことを期待するわけだ。ところが、これはうまくいきにくい。
お客さんは使ったことがない商品なのだから、実物を触らせても、自力で自分がうまく使いこなしている姿がイメージできない。しかも、そういうことをする営業は、同席していてもお客さんをうまくガイドできない(自分が使えないから)ので、何の役にも立たない。つまり、下手なデモは、お客さんにダメなイメージを植え付けることになる。やらないほうがマシである。
トークも、デモも、目的は同じである。お客さんに、自分が使っている姿をイメージしてもらう、ことなのである。それをはずせば、実物がいくらあってもダメだ。また、その場合はカタログを見てイメージさせられたほうが、そのイメージは強い。実物を触らせてのイメージは、しばらくすると薄らいでしまう。
これもIT系の営業になって思うんだが、商品をわかっていない営業が多いせいか、トークでお客さんに使っている姿をイメージさせられないようだ。だから、やたらPCを持ち歩いて、PCの操作画面(ブラウザベースのサービスの場合)を見せたりしている。それって説明の省略で、成績は良くないと思う。お客さんはいくら見せられても、自分がうまく使いこなしている姿がイメージできていないと、しばらくすると見たものも忘れてしまって、営業は成功しない。
というわけで、B2Bマーケットで2流品をカタログで売る、というのは、実は非常に良い営業とマーケティング訓練の場だった。僕はとてもツイていた。
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