ビジネス本マニアックス

内藤による働く人のためのビジネス本紹介サイト⇒自身の30歳の就職活動についても書いたり。10年くらい更新止まっています。⇒「はてなダイアリー」から「はてなブログ」へ移転しました

 リクルート特集をしていたが、うっかりこの本を忘れるところだった。この本はリクルートを知るのにも良い本である。
 この本は、ナレッジマネジメントが前面に打ち出されている。出版された当時、PCなどの情報機器を使い、営業などの持つ情報や知識をいかに共有し活用して生産性を上げていくかというナレッジマネジメントがとても流行っていた。まさにITブームであったわけだが、この本はそうしたテクノロジー重視や理論重視の本ではない。実際にリクルートの営業マンに役立つ営業情報支援は何かという問題観点から、プロジェクトチームが営業マンの習性の取材を重ね、教育し、試行錯誤を重ねつつ、リクルートの情報誌営業のためのナレッジマネジメントは何かを追求していった本である。
 その結果、リクルートの営業スタイルについての取材と分析が多く掲載されることになり、リクルートの営業について分かりやすく学ぶことができる本にもなっている。こちらの面でも役立つ。


 ここでナレッジマネジメントとは何か、であるが、内藤の理解による、多分に間違いがあるかもしれない解説をする。
 仕事の現場では、何かと問題が発生する。つまり業務を遂行していくためには、現場であれこれ工夫していかなければならない。そうすると、ここはこうしたほうがいい、とか言うようなノウハウが形成されてくる。これがナレッジ(知識)である。仕事の現場ではこういう小さな知識がたくさん出来てくるので、これを集めて皆で共有するようにすると、そこの職場チームの生産性は高くなる。こうしたことが得意なのが日本の生産システムであった。カイゼン活動やQC活動として組織に組み込まれていることが結構ある。
 ちなみに、中世ヨーロッパに見られる職人ギルドは、こうした特定の仕事の知識を独占し外部に漏れないようにしている知識の独占方法である。これにより利権が守られたのだが、他方、皆がそうしたギルドによる生産品を手軽に利用できないでいた。
 ここで、ヨーロッパの伝統に囚われない米国で革新が起きる。フレデリック・テイラーは、非熟練の労働者の生産性を上げるために、科学的に考え出された作業方法に基づいて非熟練労働者の作業方法を決めてやり、労働者はその通りに働くという仕組みを作り出した。これにより大量生産が可能になり、大量消費社会を生み出す。20世紀文明の誕生である。世界中がアメリカをあこがれる時代はここから始まったと言ってよい。
 ここにおける労働者はトップダウン式に言われたように行動すれば良いことになるので、「労働の疎外感」が生まれたと教科書には書かれる。しかしそれは一面的過ぎる。労働者は非熟練でありながら当時としては相対的な高給を得て、大量消費社会を謳歌したので必ずしも不幸とは言い切れないのだ。彼らは大衆消費文化の主役であった。米国では白人だけでは人手が足りず、黒人労働者も続々とその地位を占めるようになる。黒人労働者は田舎の準奴隷生活から都市生活という豊かさを手にすることが出来、1960年代のブラックパワーはそうした豊かになった黒人の都市生活者によって支えられていた。それが、米国外への生産移転により非熟練の黒人労働者は解雇され、地位は転落し、都市部にスラムを形成していく。
 日本では、テイラー方式の生産が行われるが、先ほど述べたように労働現場での自主的な改善活動が功を奏して、高品質低価格な製品が量産されるようになる。そのような歴史のある日本であるが、実はそれは生産現場だけにとどまっているのが現状であった。
 仕事の現場で、業務遂行のために知識が生まれてくるというのは、生産現場にとどまらない。たとえば営業の現場ではそこで知識が生まれてきている。しかし、営業活動は個人で行われることが多く、もともと共有されにくい。また、ある知識と、それによる営業のパフォーマンス向上、という関係が捉えにくいという、数値化して比較分析することが難しい面を持っている。つまり、どれが、ナレッジと言うに値するだけの知識であり、営業マン全体が共有すべきで、それによりどれだけのパフォーマンス向上が得られるかが簡単には分からないのである。そのため知識が個人でのみ蓄えられてしまい、組織全体に知識を効率よく共有する仕掛けがなかった。そして、個々の営業マンも営業成績が自分の評価につながるため、自分の持っているノウハウを隠すことが多く、共有が進まず、前近代的なままでいることが多かった。
 そこへ、IT機器を導入して、営業現場に限らず、企業内のさまざまな間接部門などでも、現場で生まれた知識を共有し蒸留し活かしていくことで生産性を上げていこうというのが、ナレッジマネジメントである、と内藤は理解している。こういう点では米国は進んでいるようだ。
 ただ、このナレッジマネジメントのためには、そもそも共有すべき知識とは何か?というところから始めねばならない。とすると、自分たちの業務はどのように進めていて、どこに知識があり、どんな知識を共有すると便利になるかという分析が、個別の企業ごとに必要になる。また、従業員自身も、知識を自ら現場で生み出していることを認識して、自分の見出した知識は積極的に公開し、公開されている知識は積極的に取り込むような習慣も必要になる。


 こうした問題に格闘した体験記が本書である。この本を読むと、そうした営業部門での生産性向上のためのヒントが手に入るし、リクルートの営業についても業務分析を通じて良く分かる。一石二鳥の本なので、営業マン自身、また営業の方法改善を考えているひとにはとても役立つのでおすすめします。