ビジネス本マニアックス

内藤による働く人のためのビジネス本紹介サイト⇒自身の30歳の就職活動についても書いたり。10年くらい更新止まっています。⇒「はてなダイアリー」から「はてなブログ」へ移転しました

ウチもやってます、なんて言うな (2003/02/12)


  また、モノを売る話なのだが、売るときに、「それならウチもやってます」と言う人がいるのだが、とてもダメな売り方だと思う。ところがやる人が結構いる。というか内藤が見る狭い範囲(社内)で、やる人が結構いて、がっくりくる。


  モノを売るためには、「ウチ」はダメなのだ。それの目指すのは売り手の同質化なのである。商売が成り立つためには、差別化しないとダメで、同質化なんかしては決していけないのである。


  って、たぶんみんな分かっていると思うが解説すると、同質化するのがなぜダメかというと、自分から買ってくれる理由がなくなるからなのである。売る側にとって大切なのは、自分のところからお客さんが買う理由である。どこで買っても同じなら、自分のところから買わないかもしれない。それをわざわざお客さんに、「自分のところで買わなくても他所でも買えますよ」というのと同じ意味のセリフをいう馬鹿がどこにいるのかと思うのだが、いるのである。


  ただ、「ウチもやってます」と言っていいシチュエーションがひとつだけあって、お客さんと仲良くなって、「オタクからモノを買いたい」といわれたときだけ「ウチもやってます」と言っていいのだ。それはお客さんからすると、自分のところから買う理由が十分にあるから、同質化のセリフを言っても既に個人的信頼という強力な差別化できているので問題がないのだ。この区別がつかないといけない。


  ちなみに内藤は似たようなことを言うことがある。「オタクもやってますよね?」と尋ねられたときだ。そのときは「ええ、ウチもやっていますが、お客さんには合いますかね。どういうことをされたいんですか?」というようなことを言う。基本的な方針が、自分の取り扱う製品がもっとも力を発揮するような使い方をする顧客に売る、ということでやっているので、こちらからお客さんを選別するのである。こうすると、本気のお客さんは本気で話をしだすし、濁す人とはどうせ商談の途中で破談になるので、早い時期にその区別がついて商談時間を無駄に消費しなくて済む。




  さて。差別化しないと注文が取れないというのは理解すると、次にやってしまうのは「他社に出来ない相談を受けてくる」パターンだ。これが往々にして、他社に出来ないだけではなくて、自社にも出来ないものだったりする。まあもちろん、これを情熱でカバーして自社で出来るようにしてお客さんに感謝されるというのもないわけじゃないのだが、たいていは、「やっぱりウチも無理でした」とか言って信用をなくすことのほうが多い(と内藤は思う)。


  差別化となると他社がやっていないことに注力する、と短絡するのはよくないという話なのである。そのやり方でうまく行くためには以下の条件を満たさないといけない。


  (1)お客さんが欲しいと思っているか、必要としている。
  (2) 他社に出来ない理由がある。
  (3) 自社では可能にする技術がある。


  この3条件の1つでも欠けたらダメだ。他社がやっていないのには理由がある。欲しがるお客さんがあまりいなくて採算に乗らないからか、技術的に困難なためか、そういう理由があるのが通常である。他社が出来なくて、自社で出来ても、お客さんが欲しいと思わないかもしれない。そういうことだってありうるので、単純に他社で出来ないことをするのは差別化戦略をしたことにはならない。他社がやっていなくて、自社でやっている、というのはカッコいいが、それなりの理由があるのだ。


  特に重要なのは、自社と他社の間で技術的な優位性がないことがほとんど、という現状だ。たいていの製品は他社よりそれほど優れていない。むしろ劣っていたりする。そうした中で、その製品を売ろうとするときに、単純に他社に出来ないことを探そうとしても無理なのである。ここらへんが学者の書く本には書いていない。


  ではどうすれば差別化を図るのか、なのだが、もっと商品と顧客を仔細に検討するのである。自社製品と他社製品はほとんど同レベルであることがほとんどだが、細かく検討すると些細な違いがある。その違いで、自社の強みと弱みを明らかにして、顧客にとっての自社製品を選んだ場合のメリットを強調するのである。この場合は、さらに顧客のニーズとウォンツを仔細に分析して、細部をコントロールする必要もある。


  なんだか抽象的で分かりにくいので例を出すと、性能はまったく同じ2社があるとして、ウチのほうは納期がちょいと早くできるとする。ここで、「ウチは納期が早いですよ」と言っても、「ふーん」で終わってしまう。「早いに越したことはないけど、その分、オタクはちょっと価格が高いからねえ」とか言われたりして。どうしてそうなるかというと、「納期が早い」というニーズとウォンツを高めていないでメリットを言ったからなのだ。以前に、納期が遅くて困った事例を思い出させたり、納期が決定的に重要なシチュエーションを考えてもらえば、「納期」という観点がとても重要な決定項目になることがわかる。そうなると「納期が早い」という小さなアドバンテージが生きてくる。つまり、自社の小さなアドバンテージを見つけるということが大切だが、そのためには他社の小さなディスアドバンテージを見つけておくことが必要だし、顧客がその小さなアドバンテージが決定的に重要であるか考え、場合によっては誘導して、その重要性を認識してもらうという儀式が必要なのである。


  つまり、差別化を図るというのは、自社と他社の小さなアドバンテージとディスアドバンテージ、顧客の表面的な要望と、隠れた要望をすべて勘案していかないと、差別化は図れないのだ。あとはイメージなのである。どれだけ印象を作れるかという話なのである。


  顧客にとって明確に比較できるのは、価格とスペックデータでしかない。しかし、製品の良し悪しはそれだけでは分からないのだ。そのことも顧客は実は分かっている。製品はスペックデータ通りとは限らないし、サポートがどこも同じとは限らない。顧客が買うのはトータルの製品購入の効果なのである。ところが、トータルでどうなるかは分からないので、そこのところは全体のイメージで決めてしまうのである。価格とスペックシートは自己の決断を正当化できるツールであることがほとんどだ。


  だからこそ、まずは全体のパフォーマンスで良いというイメージを与えなければいけない。そして、その全体のパフォーマンスの良さを実証するための「証拠」として見積書とスペックシートが存在するのである。この順番を逆にすると、とてもいやーな感じの商談が進行する。価格をギリギリまで下げないと受注できないか、顧客にとっての本命に値引きさせるためのアテウマにされてしまうだけで終わる。


  重要なことは、売り手側のトータルイメージ戦略で、お客さんはその製品に対するイメージが決まり、そのイメージで予断を持つということなのだ。顧客は最初のほうにある程度心を決めているのである。なぜならば、どのメーカーの製品も似通っているからだ。決定的に良い製品が分かっていれば初めからそこを買う! それが分からないから、あれこれ調べるのである。そして多くの製品はどれもずば抜けてはいない。となると、全体的なイメージで印象を持ってそれを元に大まかに決めてしまう。スペックシートや見積もりというのは、その大まかな予断に間違いがないかどうかの検証に使われる。「ああ、間違っていなかった」というわけである。まれに明らかに本命が劣っていることが分かった場合は、「競合社のほうが明らかに良いので考え直したほうがいいのかな」と考えるのである。


  だからこそ、商談の最初にスペックシートと見積もりという形で進むと、お客さんは既に本命を持っていて、その本命で間違いが無いかの確認作業をしている場合がほとんどなのである。顧客にとっての本命が他社品で、対抗が自社品になっているようなケースでは、本命(他社)に対しては、その選択が間違っていない理由探しをしているが、対抗(自社)に対しては、そこを選ばない理由を探すのだ。とても不利な競争になる。価格を大幅に下げるのは他社も自社もコスト構造が似ていることが多いから難しい。多少下げただけでは本命も追従して下げてくる(顧客は本命に対抗の存在を話すから)。また、多少低いだけだと、スペック面やサポート面の不安を挙げて選ばなかったりもする。価格で勝っても、今度は性能や実績などで負けたりするのだ。それも些細な差で。つまり、価格もスペックも決定的に重要ではないことがほとんどなのである。必要なのはトータルイメージなのだ。


  いったん、本命(他社)と対抗(自社)という状況に落ち込むと、その違いは些細な違いにも関わらず、とても不利な状況になる。そうなってしまうのは、最初のイメージ形成に失敗しているということなのだ。そして、イメージ形成に失敗するというのは、自社品と他社品、そして顧客のことを良くわかっていないというのが大きな理由だと内藤は思うのである。


  売り手は差別化を図らないと生き残れない。しかし、差別化といっても、多くの場合、似通った商品で競争するので、分かりやすい決定的な差別化は出来ないことがほとんどだ。となると、他社品との差異は些細な差異に過ぎない。しかし顧客はその些細な差異に意味を見出してひとつ選ぶ。顧客は些細な差異の一個一個を検定して機械的に選んでいるかというとそんなことはなくて、トータルの性能というある種のトータルイメージで選んでいる。だから、顧客には初期の段階で予断という、先入観がある。顧客は、自分の予断の検証にほとんどの検討時間を費やす。ここで本命になっていないととても厳しい勝負になる。そうなると、本命のミスを探さないといけない。そうではなくて、価格が比較的安い、とか、性能が比較的良い、くらいの差異を強調しては勝つことは出来ない。価格が比較的高い他社、性能が比較的劣る他社に受注が決まってしまうのも不思議ではない。大きな差が無い場合、トータルのイメージが優先される。そこで、トータルのイメージで勝つためには、自社品と他社品の小さなアドバンテージとディスアドバンテージ、また顧客の詳細を知った上での戦略がないといけない。

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